9号  2017/12/27 (通冊109号)
発行:関西農業史研究会
農業の歴史と文化のアゴラ
いい稲・悪い稲 - 田んぼ見学の参考に
重久正次 shigehisa533@hb.tp1.jp

 私は稲の手植え時代から40年ほど現場を歩いてきました。最初のころは、稲の姿を見てもそれがいい稲なのか悪い稲なのかわからず、農家に教えてもらっていたのですが、
何年かすると自ずとある程度分かるようになってきました。このサイトを訪れる方々は文系の方が多いと思いますので、私が覚えてきたことをお示しすれば、
田んぼ見学に少しは参考になるかと思い、以下に書いてみます。
1.苗について
 今は、手植えをすることはありませんので、機械移植苗についてみてみましょう。
 まず最初に苗箱全体の姿を見ます。いい苗は全体の背丈がそろって、葉がピンと上を向いていて、一番下の水平に近く開いている本葉1枚目が緑色を維持しています。
 悪い苗は、一番上位の葉が伸びすぎて曲がり、一番下の葉が枯れかかっています。ひどい場合は機械に絡まってしまうので、
はさみや草刈り機で上を切らないと田植えできないこともあります。その後の生育が悪くなるのは当然です。
2.田植え直後
 いい苗では通常、田植え後1~2日で新しい根が確認できます。もちろん予期せぬ低温で発根が遅れる場合もあります。田んぼに行かれたら農家に断って1本抜いて確認してみましょう。
 畔からでいいですから1株に植えられた苗の本数を数えてみましょう。機械で植えるのですから全部が一定の苗数にならないことが多いです。
普通は1~5本くらいになっていると思います。しかし、中には10本以上となっている場合があります。これではその後過繁茂となってしまいます。
 田植え後、1週間から10日ころに下の葉にまるで鉄さびの粉を撒いたような細かい斑点が出ることがあります。小西篤好「農業余話」にある「赤やけ」がこれだと私は思っています。
これは田んぼの急激な異常還元状態によって引き起こされます。病気ではなく、根からカリウムが排出されて引き起こされるカリ欠乏です。
対策として、除草機で土壌を攪拌して還元状態を軽減するのが最もいいのですが、いったん落水し、湛水することを数度繰り返します。
田植えが近づいてあわててワラや草をすきこみ代掻きした場合や、田植え後気温が急に高くなった場合によく起こる現象です。
3.分げつ期
 この期間の稲株のいい姿はたとえ雨でぬれていても上位葉3枚がピンと上を向いることです。株元はじゃんけんのパーのように手のひらを広げたようになっています。
指をくっつけたような姿は、1株の苗数が多すぎた場合が多いです。
 このころにすでに雑草が多くみられると、その後の稲の生育が強くおさえられるのでその後の生育もおぼつかないことになります。
 イネの葉の長さは一番下の葉、すなわち本葉第1葉が最も短く(正常な場合は約3センチ)、その後出てくる葉は数センチずつ長くなります。
それが不規則に長くなったり、短くなっている場合は何らかの原因(肥料が過ぎたり、除草剤の障害など)があります。
4.出穂・登熟期
 まれにとびぬけて高く出穂した株を見ることがありもしれません。馬鹿苗病に感染した場合もありますが、
種子の更新をしばらくしていない場合に突然変異の種子が混じった場合でも起こります。自身で育苗せず、最近は苗を購入することが多くなり、
このような稲を見ることも少なくなりましたが、昔はかなり見られたものです。
 一番上の葉(止葉)を含み、上位3枚の葉が直立し、適度の緑色を維持しているのが良好な姿です。
止葉が横たわっているようでは登熟不良となり、米質が低下したり減収となります。
 根腐れが進行している稲株では下葉の枯れ上りがひどく、中干しなどの水管理ができていない場合に起こります。
下葉の枯れ上りはそれほどでなく、止葉の先端部が枯れているのは、台風などの強風を受けたときに出ますが、中干し後に深く湛水したままの場合にも多く見られます。
これも水管理の失敗です。
 刈り取り直前の稲株で、黄色く熟した穂の下の方にまだ青い穂がかなりあるのは米質低下の原因になります。分げつ期の生育がもたついたことによる場合に多くなります。
 以上、稲作管理に関して変わっていく稲の姿を紹介しました。もちろん、病気や害虫によってもたらされる症状も稲作診断に含まれますが、今回は省きました。
 また、本格的な稲作診断は田んぼに入り、地温を感じたり、水持ちの良否などの聴き取り、面積当たりの株数や莖数を調べたりすることが欠かせません。
しかしながらそれらは専門的な方々が調べることでしょう。
 文系の方が現地に赴き、農家とのお話しすることも大事なことだと思います。その時に少しでも話が弾むネタになればと書いてみました。少しでもお役に立てれば幸いです。